出会い（信広技術㈱　馬場久一）

信広技術株式会社
馬場久一

　私は､3人の忘れられない人がいる｡すでにそのうちのお2人は他界されてしまいましたが､些細な事から知合いとなり､お付合いをいただいている間に､気がつくと私の人生の中において､自分でも想像していない程､その人の影響が入りこんでおり､やはり｢大きい人｣は､大きな影響を与えるものだとつくづく感心するばかりです｡そのなかのお１人で､佐渡にお住いだった方の思い出を書きます｡
　当時､私は営業がてら､3ヶ月に一回位の割合で佐渡に行く事がありました｡御予定の連絡をとり､当日佐渡汽船で両津港に着きますと､その方は､事務員の運転する車で､必ず港に迎えに来て下さるのです｡私にとっては､大切なお客様であり､しかも人生の大先輩なのですから､大変恐縮の限りなのですが､その方が現役を退くまで､それは続きました。私は仕事で渡島するのですから､当然事務所に伺い､仕事の話をするつもりでいるのですが､その人は必ず別の所にわたしを連れて行くのです｡行き先は､骨董屋です｡
　店内のいろいろな品物を品定めをしながら私に意見を求めるのです｡私の方は､骨董品についてはまったく知識が無いのですから､真面な答が､返る訳がないのですが､それでも聞いてくるのです｡私はたまたま子供の頃､茶道を遣らされていたものですから､品物についての多少の聞きかじりはありましたが､しかし､そんなもので､物事がうまく行く訳はありません｡骨董屋の次は､御自宅での品定めです｡
　今思えば､特別に知識や､その道の「学」がなくても一緒にその品物に纏わる事柄を話合える事を楽しんでいたのだと感じます｡
　肝心の仕事の方です。こちらはいとも簡単に済むのです｡当時､創業したての私の貧乏会社に対し､法外の仕事をいただき､仕事と､人生勉強と､思わぬ実績を､沢山いただき､おかげ様で､今日の我社がある次第です。
　還暦を迎えた今､若い社員や､知人には､自分を取り巻く環境の中で､諸先輩方々に､どれだけ認知され､叱咤激励を頂けるかで､その人間の価値が決ると､機会ある事に話をしています｡